働けなくなったときの保障と保険
病気やけがで働けなくなったとき、収入が減っても生活費や医療費の支払いは続きます。まず社会保障を確認し、それでも足りない金額を保険で備えます。
病気やけがで働けなくなったとき、収入は減っても、生活費や住居費の支払いは続きます。治療が必要なら、そこに医療費も加わります。
このリスクに備える民間保険として、就業不能保険や所得補償保険があります。しかし、最初から保険商品を探すのではありません。
まず、健康保険や労災保険などから受けられる保障を確認します。そして、その金額を生活費や医療費から差し引き、なお不足する部分だけを民間保険で補います。
名前の似た三つの保険を区別する
収入に関係する保険には、よく似た名前のものがあります。
収入保障保険
被保険者が亡くなった場合や所定の高度障害状態になった場合に、家族へ年金形式で保険金を支払う生命保険です。
名前に「収入保障」とありますが、本人が病気やけがで働けない間の収入を補うものではありません。基本的には、遺族の生活を守るための死亡保障です。
就業不能保険
病気やけがで所定の就業不能状態になった場合に、給付金を受け取る生命保険です。長期間働けないときの本人と家族の生活を支えるために使います。
何を「働けない状態」とするかは、商品によって異なります。入院だけが対象なのか、医師の指示による自宅療養も含むのか、精神疾患をどこまで保障するのか。名称だけで判断せず、約款をよく読んで支払条件を確認する必要があります。
所得補償保険
就業不能保険と同じように、病気やけがで働けなくなったときの所得を補いますが、こちらは損害保険です。
一般に、就業不能保険は60歳までなど長期の保障、所得補償保険は1年など短期の契約が中心です。ただし、実際の保険期間や支払条件は商品ごとに異なります。
三つの違い
収入保障保険は主に亡くなった後の家族の保障。就業不能保険と所得補償保険は、生きている本人が働けない間の保障です。
会社員なら、まず傷病手当金を確認する
会社員など健康保険の被保険者が、業務外の病気やけがで働けず、給与を受けられないときは、健康保険の傷病手当金を受けられる場合があります。
連続する3日間(土日・祝日などの公休日や有給休暇も含む)の待期を経て、4日目以降の休業が支給対象です。ただし、この3日間は連続している必要があります。支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。
標準報酬月額を確認する
計算に使うのは、毎月の給与そのものではなく「標準報酬月額」です。
標準報酬月額とは、基本給に残業手当、通勤手当、住宅手当などを加えた税引き前の報酬を、一定の幅ごとに区分した金額です。たとえば、実際の報酬月額が31万円でも、標準報酬月額は等級表に当てはめた32万円になることがあります。
給与明細に標準報酬月額や健康保険の等級が記載されていれば、そこから確認できます。記載がない場合は、加入している健康保険組合や協会けんぽの保険料額表で、自分の報酬月額がどの等級に当たるかを調べます。正確な金額が分からなければ、勤務先の給与・社会保険担当者または加入する健康保険へ確認するのが確実です。
傷病手当金では、原則として支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額を合計し、12で割った平均額を使います。途中で標準報酬月額が変わっている場合は、現在の1か月分だけで計算しないよう注意が必要です。
標準報酬月額の平均
支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額の合計 ÷ 12か月
被保険者期間が12か月に満たない場合は計算方法が異なるため、加入する健康保険へ確認してください。
傷病手当金を計算する
1日あたりの支給額は、原則として次の式で計算します。
傷病手当金の1日あたりの支給額
支給開始日以前12か月間の各月の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 3分の2
標準報酬月額の平均を30日(固定)で割った金額は、10円未満を四捨五入します。そこに3分の2を掛けた金額は、1円未満を四捨五入します。
たとえば、支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均が32万円なら、次のようになります。
320,000円 ÷ 30日 = 10,670円
10,670円 × 3分の2 = 7,113円
待期期間を終えた後の支給対象日数が31日なら、傷病手当金は次のとおりです。
7,113円 × 31日 = 220,503円
傷病手当金は非課税ですが、休職中も住民税や社会保険料の支払いは続く場合があります。
注意したいのは、給与の全額が補われる制度ではないことです。当然ですが、傷病手当金を受け取っている間も、生活費の支払いは続きます。
退職後の継続給付には、退職日の前日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態にあること、退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があることなどの条件があります。病気やけがを理由に急いで退職を決める前に、勤務先や加入する健康保険へ相談することが大切です。
超重要
働けなくなったからと言って、すぐに会社を辞めてはいけない。
なお、傷病手当金は被扶養者には支給されません。また、国民健康保険には原則として傷病手当金の制度がないため、自営業者やフリーランスは、会社員より大きな備えが必要となります。
労災保険の休業補償も知っておく
業務や通勤が原因の病気やけがで働けない場合は、健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険の休業(補償)等給付を確認します。
休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%が支給され、これに20%の休業特別支給金が加わります。
労災保険の休業1日あたりの給付額
休業(補償)等給付:給付基礎日額 × 60%
休業特別支給金:給付基礎日額 × 20%
合計:給付基礎日額 × 80%
給付基礎日額は、原則として、事故が発生した日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割って計算します。
ただし、労災保険は傷病手当金と原因、待期の数え方、支給期間などが異なり、個別の事情によって扱いも変わります。ここでは「仕事や通勤が原因なら労災保険を確認する」という点を押さえるに留め、具体的な手続きや支給額は勤務先や労働基準監督署へ確認してください。
必要保障額は毎月の不足額から考える
働けないときの必要保障額は、次のように考えます。
毎月の必要保障額
住居費を除く生活費 + 自分の住居費 + 医療費 + 住民税・社会保険料など − 公的保障などから受け取れる金額
しかし、毎月の生活費を把握していない人も少なくありません。そこで、最初のお試し計算では、総務省統計局の家計調査を使ってみます。
2025年の家計調査(総務省統計局)では、単身世帯の1か月の消費支出は平均173,042円、そのうち住居費は21,667円です。消費支出から統計上の住居費を差し引いた151,375円を、住居費を除く生活費の目安とします。
単身者の住居費を除く生活費の目安
173,042円 − 21,667円 = 151,375円
統計上の住居費には、家賃だけでなく設備修繕・維持費なども含まれます。また、この統計は持ち家世帯を含む単身世帯全体の平均です。そのため、151,375円はあくまで最初の試算に使う概算と考えます。
ここに自分の家賃や住宅ローンなどの住居費、休業中にかかる医療費、支払いが続く住民税や社会保険料を加えます。そして、先ほど計算した傷病手当金を差し引きます。
たとえば、標準報酬月額の平均が32万円、支給対象日数が31日、家賃が7万円、医療費が1万円、住民税と社会保険料の合計が7万円なら、試算は次のようになります。
151,375円 + 70,000円 + 10,000円 + 70,000円 − 220,503円
= 80,872円の不足
この約8万円が、1か月あたりの必要保障額を考える出発点です。
ただし、統計値はあくまで全国の単身世帯の平均です。食費、光熱費、通信費など実際の支出が分かる人は、自分の金額へ置き換えてください。自動車のローンや奨学金など、統計だけでは捉えにくい支払いがあれば、それも加えます。
また、不足額の全額を保険で用意するとは限りません。生活防衛資金で何か月持ちこたえられるか、勤務先から休業補償や見舞金が出るかも確認します。
そのうえで、貯蓄では受け止めきれない期間と金額を、就業不能保険や所得補償保険で補います。
保険を比べるときに見るところ
商品によって保障内容が異なっており、特に以下の点には注意します。
- 入院だけでなく自宅療養も対象になるか
- 精神疾患を保障するか
就業不能状態や免責期間の定義、期間の起算日は商品によって異なります。名称や「60日」といった数字だけで判断せず、約款、契約概要、パンフレットをよく読み、どのような状態がいつから給付対象になるのかを確認してください。
まとめ
働けなくなったときの保障は、民間保険だけで考えるものではありません。
- 会社員であれば傷病手当金の見込額を計算し、休業中に使える金額を把握する
- 生活費等から傷病手当金の見込額を差し引き、不足額だけを民間保険で補う
保険の目的は、加入することではなくリスクヘッジです。先に必要保障額を明らかにし、それを満たすために保険を使う。この原則は、働けなくなったときの保障でも変わりません。
NOTE
社会保障制度や保険商品の支払条件は変更されることがあります。申請や加入を検討するときは、加入する健康保険、勤務先、公的窓口、保険会社などで最新情報をご確認ください。